めざせお散歩マスター。にゃんぞぬデシが2日間で出会った、自由が丘の知られざる魅力 【後編】
- 取材・文:原里実
- 写真:大西陽
- 編集:藤﨑竜介(CINRA)
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まちに「泊まる」からこそ、つながる縁を紹介する「ご縁泊」の自由が丘編。シンガーソングライターのにゃんぞぬデシさんと、自由が丘の魅力あるスポットを2日間にわたり巡った。
この後編がお届けするのは、2日目の模様。にゃんぞぬデシさんが「行ってみたい!」とリクエストしてくれた、たい焼き店「Medetaiya」(メデタイヤ)、日本で初めて「デパート」を名乗った「自由が丘デパート」、老舗の写真専門店「ポパイカメラ」を訪れた。
良質な焼肉をたっぷり食べられる「花十番」、優雅な雰囲気を満喫できるカフェ「ロイヤルクリスタルコーヒー」などを紹介する前編はこちら
まち歩きのお供に。豊富なラインアップがうれしいたい焼き店・Medetaiya
好天に恵まれるなか、滞在先の三木春子さん宅にて、まち歩き2日目がスタート。
いってらっしゃい。楽しんできてね。
春子

はい!
にゃんぞぬデシ


* 春子さんが運営する民泊の詳細はこちらの前編にて
まず向かうのは、奥沢駅前にあるたい焼き店「Medetaiya」(メデタイヤ)。奥沢駅は東急目黒線、自由が丘駅は東急東横線・大井町線と路線が異なるものの、じつは徒歩10分くらいで着くほど近い。
お散歩を兼ねて、ちょうどいい距離ですね!
にゃんぞぬデシ

Medetaiyaでは、スタッフの富田貞江さんが優しく応対してくれた。
いらっしゃいませ。
富田

はじめまして、にゃんぞぬデシと申します! 奥沢駅の前を通るたびに、このお店が気になっていて。今日、初めて寄ることができました。
にゃんぞぬデシ

それはうれしいわ!
富田


Medetaiyaは、富田さんの娘・綾子さんが2018年に開いた店。かつて近所にあったたい焼き店「鯛焼開運庵」の大ファンだった綾子さんが、同店の閉店を期に一念発起して始めたという。
おかげさまで、2020年には旗の台駅前に2号店をオープンしたんです。綾子がそっちの店に立つことになり、「お母さん、奥沢の店はよろしく!」って、田舎から駆り出されちゃって(笑)。
富田

そうでしたか……(笑)。でも協力して、お店を2店もやられているなんて、とても素敵です。ところでこのお店のたい焼きは、いろいろな種類がありますね。
にゃんぞぬデシ

開店当初は、鯛焼開運庵さんと同じくあんことクリームだけだったんだけど。いろいろあったらもっと楽しいかなって、綾子が試作しながら開発しています。
富田


黒ゴマあんやラムレーズンあん、ホワイトレアチーズといったスイーツ系から、キーマカレー、ハムマヨ、ハムチーズといった食事系まで多彩なラインアップ。これに加えて期間限定メニューも登場するという。

人気なのはどれですか?
にゃんぞぬデシ

あんことクリームはもちろん定番だけど、若い子にはハムマヨ、ハムチーズあたりが人気かな。あとは、サクサクチョコレートとか。
富田

サクサクチョコレート、おいしそうですね……!
にゃんぞぬデシ

3種類のチョコレートを使いつつ、ライスペーパーでサクサク感を出しています。
富田

どれにしようか、真剣な表情で悩み始めるにゃんぞぬデシさん。「やっぱり最初だから、あんこで」と王道の味をチョイス。富田さんが、ボリューム感のあるたい焼きをその場で焼き上げてくれた。



はい、どうぞ!
富田


いただきます。
にゃんぞぬデシ

ホカホカのたい焼きを、頭からガブリ。すると、自然に幸せな笑みがこぼれる。

外側がサクサクでとっても美味しい! あんこも甘すぎなくて、軽く食べられちゃいます。
にゃんぞぬデシ

犬のお散歩中のお客さんが、皮の部分をワンちゃんにあげている姿もよく見ますよ。
富田


富田さんに見送られ、たい焼きを手にまち歩きを再開。

自由が丘駅に向かって歩いていると、迫力のある藁(わら)の大蛇が鳥居にからみついた「奥澤神社」の前を通りかかり、お参りすることに。


平日だけど、ご近所の方が立ち寄ってお参りしていますね。静かで澄んだ空気が流れている感じがするから、足を止めたくなる気持ちがわかります。
にゃんぞぬデシ


「自由が丘が文化を教えてくれた」。日本最古のデパートで、まちの昔話を
次のスポットは、自由が丘駅前に建つ「自由が丘デパート」。地下1階、地上4階の細長いビル内に、ファッション、雑貨、アンティーク、飲食などさまざまな業態の店が100軒ほど立ち並ぶ。

ここには、自由が丘に来るとよく立ち寄ります。お茶を買える店とか、古きよき風情のある化粧品店とか。このデパートのなかを通り抜けるほうが、外 の道を通るより楽しいんですよ。
にゃんぞぬデシ


時刻はちょうどお昼どき。飲食店中心の2階に上がると、アパートの外廊下のような「半分外」の空間に。ベトナム料理、トルコ料理、インド料理、とんかつ、寿司……多彩な飲食店が並ぶその場には、なんとなく異国情緒が漂う。

ハワイアン料理と音楽を楽しめる「アイランズカフェ」が店を構えるのも、そのあたり。入口の扉を開けると目に飛び込んでくるギター、アンプ、マイクスタンドといったスタジオさながらの設備に、にゃんぞぬデシさんの瞳がキラリと輝く。


この店では、よくライブもやっているんですよ。ミッキー・カーチスさん、元チェッカーズの大土井裕二さん、元キャロルの内海利勝さん、元ヴィレッジ・シンガーズの小松久さんなど、実績豊富なミュージシャンもたくさん出演しています。
土肥

そう教えてくれたのは、店主の土肥彰さん。自身も若いころから、音楽活動をしているという。会社員とミュージシャンの二足の草鞋(わらじ)を履いていた時期を経て、50歳を目前に会社を辞めて開いたのがアイランズカフェだ。

どうしてハワイアンのお店にしたのですか?
にゃんぞぬデシ

まだ19歳だったころ、アメリカ中を放浪する旅に出たんですが、そのときの飛行機の便が行きも帰りもホノルル経由で。帰りに立ち寄ったハワイ島が、強く印象に残っていたんです。
土肥

ホノルルのあるオアフ島と、ハワイ島は違いますよね?
にゃんぞぬデシ

そう。ハワイ島は火山活動がさかんで、より大自然の力を感じる場所です。一般的なハワイのイメージは「華やかなリゾート地」だと思いますが、ハワイ島はもっと素朴。この店は、そんな現地にあるカフェバーをイメージしてつくっています。
土肥



土肥さんが出してくれた料理は、「手ごねハンバーグどん(グレービーソース)」、いわゆる「ロコモコ」だ。
ロコモコっていろいろな 店で見るようになったけど、たいてい本場の味とぜんぜん違うんです。でもうちのは、ハワイ出身のお客さんも認める「本物」ですよ。
土肥


すごい、お肉に迫力があって美味しい! ソースもたしかに、思っていた「ロコモコ」とぜんぜん違いますね。これが本物の味なんだ……。
にゃんぞぬデシ


しみじみと味わうにゃんぞぬデシさんに、自由が丘周辺で生まれ育ったという土肥さんが、自由が丘デパート、そしてまちの話をしてくれた。
このあたりには戦後、闇市(*)があってね。それが組織されて「自由が丘マーケット」という商店街になり、1953年にこのビルが竣工して自由が丘デパートになった。日本で初めて「デパート」を名乗って開業したのが、ここなんです。
土肥

* 終戦直後などの非常時に物資の供給が統制されるなか、非合法なかたちで生まれる生活必需品の市場
そうなんですね!
にゃんぞぬデシ

当初は地上2階までしかなくて、屋上にはローラースケート場もあったみたいです。
土肥

へぇ〜! 長く自由が丘に住んでいる土肥さんにとって、このまちはどんな場所ですか?
にゃんぞぬデシ

う〜ん、そうだなぁ。僕が小学生だったころ、自由が丘にはたくさん映画館があったんですよ。それにレコード屋や、ライブハウスの先駆者といえるような店もありました。僕にとって、自由が丘は文化を教えてくれたまちですね。
土肥

昔の自由が丘のことは、ぜんぜん知りませんでした。そういえば、私も中高生のころ、学校帰りに自由が丘の「ヴィレッジヴァンガード」によく寄っていたなぁ。もうなくなっちゃったけど……。
にゃんぞぬデシ

あの店は最高だったよね。
土肥

かたちは変わっても、私も自由が丘に文化を吸収しに来ていたな、と思い出してうれしくなりました。
にゃんぞぬデシ



写真専門店・ポパイカメラでトイカメラをゲット。風景を撮りつつ、春子さん宅を再訪
土肥さんの尽きない昔話に後ろ髪を引かれながら、次の訪問先「ポパイカメラ」へ。写真好きのにゃんぞぬデシさんが、自由が丘でしばしば立ち寄る店の1つだとか。
散歩のお供に、いつもカメラを持ち歩いていて。風景や猫を撮るのが好きなんです。
にゃんぞぬデシ

ポパイカメラは、2026年に創業90周年を迎える老舗の写真専門店。カメラ本体やフィルムのほか、ストラップやアルバム、雑貨などの周辺グッズも販売してお り、写真の現像も依頼できる。


ポパイカメラの特徴の1つが、初心者でもフィルムで気軽に撮影できるオリジナルトイカメラを複数販売していること。今回は人気の定番商品「ポパカメ」を購入し、にゃんぞぬデシさんにまちの風景を撮影してもらいながら、春子さんの家に戻った。


カメラを持って歩いていると、普段なら見逃してしまうような何気ない風景にも目を止めることができる。それがいいなと思います。
にゃんぞぬデシ





まち歩きを終えたにゃんぞぬデシさんを迎えてくれる、春子さん。
おかえり〜。
春子

ただいま戻りました! 春子さんの家、少ししか過ごしていないのに、なんだか自宅みたいに落ち着くなぁ。
にゃんぞぬデシ

ホっとくつろぐにゃんぞぬデシさんに、2日間のまち歩きを終えての感想を聞いてみた。
自由が丘は昔からよく来ていたけど、まちの人たちとこんなにたくさん話せたのは初めて。本当に温かい人ばかりで、昔の思い出まで全部、より素敵なものにアップデートされた気分です。 それに、あらためてじっくり歩いてみると、駅の近くにある石畳の道や、緑道、小さな踏切など、味わい深い風景があって。訪れる人の心を楽しませてくれるまちだな、と再発見しました。
にゃんぞぬデシ

本当に、自由が丘は楽しいところよね。住んでいてもそう思う。私が住み始めたころから変わった部分もあれば、自由が丘デパートみたいに変わらない面もあるし。
春子

そうですね。
にゃんぞぬデシ

自由が丘デパートの隣には新しいビルができるみたいで、工事の真っ最中ね。完成したらどうなるのか、とても楽しみだわ。
春子

またお散歩のコースが増えるかもしれませんね!
にゃんぞぬデシ

本当ね。
春子

私も春子さんみたいに、日常のなかに小さなときめきを見つけながら、日々を重ねていきたいです!
にゃんぞぬデシ

自由が丘に暮らすように滞在し、その魅力を深掘りした今回の企画。個性的なスポットを巡りつつ、新しさと歴史、そして洗練された面と親しみやすさが絶妙に調和した、ユニークなまちだと感じることができた。
そんな自由が丘での散歩を、ぜひ一度体験してみてほしい。じっくりと歩けば、寄り道したくなるような風景や心落ち着く空間と、何度となく出会えるはずだ。

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