縁線図鑑気づけばほら、つながりだらけ。

No.023

〇〇好きのご縁飯 〜ペット〜

多摩川駅そば。愛犬家でにぎわうお好み焼き店・大鵬は、30年通う常連親子の「人生の一部」

  • 取材・文:原里実
  • 写真:丹野雄二
  • 編集:藤﨑竜介(CINRA)

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東横線、目黒線、東急多摩川線が通る多摩川駅。その名のとおり、広々とした多摩川のほとりにたたずむ駅だ。南口を出て線路沿いを進むと、歴史ある飲食店が軒を連ねる商店街「多摩川園前商栄会」がある。

その一角に店を構えるのが、1960年に開業したお好み焼き・もんじゃ焼き店「大鵬」。店主は、2代目の高橋まゆみさんだ。動物好きのまゆみさんが営むこの店は、ペット連れで入店できるのが特徴。多摩川沿いで散歩する地元の愛犬家などから、熱烈な支持を集めている。

30年以上この店に通う牛尾眞佐子さんも、そんな大鵬ファンの1人。娘の恵さん、そしてダックスフンドの愛犬・モクちゃんとこの店で食事を楽しむのが、習慣になっている。

牛尾さん親子ら地元の動物好きをはじめ、多くの人から愛されるこの店の魅力はどこにあるのか。眞佐子さんと恵さん、そして店主のまゆみさんが育んできた縁を基に、ひも解いてみた。

30年変わらない、常連や店員と自然に仲良くなれる雰囲気

──牛尾さん親子は、どういうきっかけで大鵬に通うようになったのですか。

初めて来たのは、もう30年くらい前ですね。この店からすぐ近くの、いまは病院になっているところに、昔はスイミングスクールがあって。(娘の)恵がそこに通っていて、まゆみさんの娘さんに指導してもらっていたんです。

眞佐子

大鵬に30年近く通う常連の牛尾眞佐子さん

うちの娘は、スポーツのインストラクターとかをしているんですよ。

まゆみ

1960年に開業した大鵬の2代目店主、高橋まゆみさん

そのつながりでこの店を知って、あるとき小さかった恵を連れて入ってみたんです。庶民的な雰囲気で落ち着けるし、もちろん料理もおいしい。すっかり気に入って、それ以来定期的に来るようになりましたね。

眞佐子

私は本当に小さいころから大鵬に来ているので、ある意味人生の一部ですね。いまも週に1回くらいは、母や愛犬のモクと晩ごはんを食べに来ています。 友達との思い出もこの店にはたくさんあって。小中学生のときから、何組かの家族で集まるときは決まって大鵬だったんですよね。大人になってからは友達同士で飲みに来るようになり、いつもまゆみさんが温かく迎えてくれます。

母の眞佐子さんとともに大鵬に長らく通う恵さん
牛尾さん親子が飼うダックスフンドのモクちゃん。2025年3月の取材時点で、生後数か月

──30年近く通うなかで、何か変わったことはありますか。

なんだろう……。

眞佐子

内装がちょっと変わったくらい?

ああ、たしかに。でもそれ以外は、本当に何も変わらないね。常連さんや従業員の方々と、いつの間にか友達になっちゃうような温かい雰囲気は、ずっと変わらない。

眞佐子

従業員も、長く働いてくれている人が多いからね。10年、20年……長い人では、あいだを空けて50年とか(笑)。みんな近所に住んでいる人たちです。

まゆみ

従業員の方が、お客さんとしてごはんを食べていることもあるし。私の同級生も一時期アルバイトしていたことがありました。

変化といえば、ペットの入店をOKにしたのは、10年くらい前からですね。

まゆみ

店先にはペット入店可と伝えるまゆみさんのメッセージが

ペットへのおやつに豚肉をサービスする、店主の気づかい

──なぜペットOKにしたのですか。

この近所は、動物を飼う人が結構多いんですよね。それで、「今日は家に置いてきちゃったから、早く帰らなきゃ」みたいな声をよく聞いていて。私もこれまでに何頭かペットを飼ったことがあるので、気持ちがよくわかるんです。だから思い切って、OKにしちゃおうと。

まゆみ

同じように動物連れの人と店で会うと、やっぱり話が弾みますね。しつけの悩みとか、共通の話題があるので。

眞佐子

──ペットを連れて来る人は、やはり多いのですか。

多いです。さきほど言ったようにこの辺りは動物を飼っている人が多いですし、あと休みの日に少し離れたところからペット連れで来てくれる人も結構います。

まゆみ

──たいてい、犬を連れた人ですか。

そうですね。猫だと鉄板の周りを動き回ったりして、危ないかもしれませんし(笑)。

まゆみ

ペット連れじゃなくても、動物好きのお客さんが多いですね。愛犬のモクも、この店に来るといろいろな人から「かわいい!」って言ってもらえるので、うれしいみたいで。

眞佐子

モクは「大鵬」って言葉がわかるんですよ。「大鵬行こうか」って私と母が言い出すと、そわそわしはじめる(笑)。

──ペットOKのかたちで運営するにあたって、気をつけていることはありますか。

やはり衛生面には、気をつけています。ときには、お客さんのペットが毛の生え替わり時期だったりしますしね。掃除は、できるだけこまめにするようにしています。

まゆみ

──ところで牛尾さん親子は、どういった経緯でモクちゃんを飼い始めたのですか。

だいぶ前にも、ダックスフンドを飼っていたことがあったんですけどね。じつは最近夫が亡くなってしまい、寂しいなと思っていたところ、ペットショップでモクに一目惚れしてしまい(笑)。

眞佐子

まあ、欠員補充だよね。

そうだね。いまは私と恵とモクの「2人と1匹」家族。この店で、よく団らんさせてもらっています。

眞佐子

モクはまだ生まれて数か月なので食べられないけど、大鵬では犬用のおやつとして豚肉の端切れをサービスしてくれるんですよ。そういう心遣いも、動物好きとしてはうれしいですよね。

常連客と生み出した「トマトもんじゃ」は、大鵬ならではの独自メニュー

近所の人が集まっては食事をし、酒を飲み、店主や店員と、あるいは客同士で和やかに話を弾ませる。そうして温かな縁が紡がれ続ける大鵬は、まゆみさんが母から受け継いだ場所だ。開店当初はすき焼き店だったものの、ある時期からは、ずっとお好み焼き・もんじゃ焼きをメインにしているという。

──長らくお好み焼き・もんじゃ焼きの店として、営業しているそうですね。

はい。お客さんに焼いていただくスタイルが、私に合うんです。正直、その分楽できるからね(笑)。昔からお好み焼き・もんじゃ焼きが軸なのは変わらないけど、ちょこちょこメニューを改良したり、新しいものを出したりしているんですよ。

まゆみ

新メニューが出ると、うれしいですね。恵と一緒に必ず一度は試しています。

眞佐子

大鵬のメニューはほとんど全部食べたことがあるよね。

新メニューを、お客さんと一緒につくることもよくあって。アイデアをもらったり、試食してもらって意見を聞いたり。そうやってできた新メニューは、表メニューに加えることもあれば、裏メニューとして出しているものもあります。

まゆみ

「トマトもんじゃ」は表メニューのなかで、お客さんたちと一緒につくったものの1つです。特徴は、通常のもんじゃと違って小麦粉を使っていないこと。焼いてトロトロになったトマトとたっぷりのチーズで、もんじゃのような食感を再現しています。

まゆみ

にんにくやバジルも入っていて、食べてみるとピザみたいな味なんですよ。タバスコをかけてもおいしいです。

似たような味ばかりじゃ飽きちゃうと思ってつくった、変わりダネですね。

まゆみ

1人で入っても寂しくない、店主の人柄あってこその店

豚肉が入ったお好み焼き「豚天」も、昔から人気のメニューです。これは母の代からずっと変わっていないかな。器も当時から使っている年代ものです。 個人的に豚の脂があんまりないほうがおいしいかなと思っているので、なるべく赤身の部分を選んで使っています。

まゆみ

──ほかに人気メニューはありますか。

若い人だと、豚肉とにんにく、にんにくの芽が入った「スタミナ天」。お子さん連れは「コーン天」をよく頼みますね。ダイエット中の人に向けた「こんにゃく天」とかもあるといいかなと考え中です。

まゆみ

ほかのお客さんを見ていると、「にんにくまぐろ」とかも人気ですね。そのまま食べられるおつまみなんですけど、鉄板で焼くとまたおいしいんです。

──動物向けのサービスメニューといい、いろいろな嗜好を持つお客さんへの細やかな配慮といい、まゆみさんのおもてなし精神が端々から感じられますね。

まゆみさんは、誰にでもフレンドリーだよね。お酒が入ると、より楽しい感じになる人です(笑)。

特に1人で来てくれる人とかは、寂しい思いをさせてしまうといけないので、少し声をかけてみたりしていますね。

まゆみ

本当に、まるで家のような感じでくつろげる店ですよね。それはまゆみさんの人柄あってのことだと思います。

眞佐子

ペットの散歩ができて子育てにも便利な多摩川駅周りには、富士山の絶景も

──店ではレコードがかかっていますが、これはまゆみさんの趣味ですか。

そうですね。昔からソウル、ファンク、ジャズなどが好きで。The Stylisticsとか、有名アーティストの来日公演があるとよく行っています。Earth, Wind & Fireのチケットは気づいたら売り切れになっていて、悔しかった……。

まゆみ

音楽好きのお客さんも、よく来ますよね。

1960年代ジャズ屈指の名盤『John Coltrane & Johnny Hartman』が存在感を放つ

地域に根ざし、地元の人たちが集まる「みんなの居間」のような存在として、長い歴史を歩んできた大鵬。そのあいだ、周辺はどのように変わったのだろうか。多摩川駅付近のエリアについても、3人に聞いてみた。

──近隣エリアに対しては、どんな印象や思いを抱いていますか。

まず、ペットの散歩には最高ですよね。

まゆみ

子ども連れにとっても、便利になりましたよね。駅前に「田園調布せせらぎ公園」もできたし。でも、大鵬と同じで、そんなに劇的には変わらないかな。まちの雰囲気も、住んでいる人も変わらない。

長く住んでいる人が結構いるよね。あと東横線沿いには大学もたくさんあって、通いやすいから学生も多い。

眞佐子

これで手頃なスーパーがあったら、最高なんだよね(笑)。買い物のときは東横線に乗って、川を渡って川崎側の新丸子・武蔵小杉に行くか、バスに乗って二子玉川に出るかしているので。

まゆみ

東横線は都心側に行くと自由が丘にもすぐ出られるので、よく利用していますね。

眞佐子

夜、飲みに行きたいときは、面白い店がたくさんある自由が丘や中目黒まで出ることが多いです。

──たくさんの路線が通っているだけあって、少し電車に乗るといろいろなまちに出られるのは楽しそうですね。

東急線の沿線は、まちの色がそれぞれにはっきりしている気がします。だから面白いですね。この辺りは変わらない部分を残しつつも、30〜40年前と比べたら住みやすくなっているし、住む人も増えている。やっぱり愛着はありますね。川が近くてのびのびとした雰囲気が漂っていますし、それに天気がいいと富士山もきれいに見えるんですよ。

まゆみ

まゆみさんと恵さんは共通の趣味を持ち、一緒に出かけることもあるほどの仲良し。2人のように店に関わる多くの人が、店主や従業員、お客さんという立場を越えまるで大きな「大鵬ファミリー」のようにゆるやかにつながっている。

動物好きで、新たな縁をつくりたいと思っている人は、この店ののれんをくぐってみてはどうだろう。まゆみさんや常連さん、それにかわいい動物たちが、温かく迎えてくれるはずだ。

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Information 取扱店舗情報

大鵬

住所:東京都大田区田園調布1-55-7 

TEL:03-3721-9835

営業時間:17:00〜23:00

定休日:月曜日(週によっては木曜日も)

アクセス:東横線、目黒線、東急多摩川線多摩川駅から徒歩約1分

店舗情報は2025年3月の取材時点のものとなります。

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