レコードカフェで本格和牛料理? 世田谷のゆるくて自由な空間「MY NEW HOUSE」
- 取材・文:高久大輝
- 写真:北原千恵美
- 編集:宇野宙(CINRA)
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震災から14年。遠回りしながら育てた、お店のかたち
MY NEW HOUSEがスタートしたのは2025年。しかし、後藤さんが最初にお店を始めたいと思ったのは東日本大震災のあった2011年ごろのことだそう。
もともと編集や広告の仕事をしていたんですけど、震災をきっかけに「このままでいいのかな」と考えるようになって。もっとシンプルで、こういった災害のときでも絶対に必要な仕事っていいな、と飲食に興味を持ったんです。
後藤


僕はそんな彼女に「いつかお店やらない?」と声をかけてもらって、調理の学校に通うことになりました。その前はレコード屋さんで働いたり、営業の仕事を したりしていましたね。
日野


──きっかけとなった震災から14年ほど経ってMY NEW HOUSEがオープンします。かなり長い期間あたためていたんですね。
そのあいだ、お互いいろんな飲食店で働いていました。直近はサニーデイ・サービスというバンドの曽我部恵一さんがやっている下北沢のレコードカフェ「CityCountryCity」や、「カレーの店・八月」にいましたね。
後藤

僕はイタリアンや、スペイン料理、直近では西麻布の「The INNOCENT CARVERY」という焼肉店で働いていました。
日野


正直言うと、最初は仕事を辞めてすぐお店を始められると思っていたんです。レコードを置いて、ちょっとコーヒーとか出して、ご飯もあったらいいね、くらいの軽い気持ちで考えていたので。でも実際に飲食店で働いてみたら、そんな簡単じゃないことに気づきました。
後藤

それで、できることを増やさないと、と思って、お互いいろんなところで働くようになったんです。でも、そのうち働いているお店が忙しくなったりもして。お店を始めるにはお金もすごくかかるし、「本当に開店できるのかな?」と思っていた時期もありました。
日野

できることが2人とも増えてきて、「こういう店だったらやれるかも!」というのが見えてくるまで、14年かかりましたね。
後藤

でもそれだけ時間をかけて、飲食業の大変さを知ったからこそ、そのうえで楽しくお店を続けていくにはどうすればいいのかも学ぶことができたんだと思います。
日野

レコードとご飯があって、誰かが遊びに来る。「友達の家」のような場所

はたから見れば、たしかに時間はかかったように思えるだろう。しかし、だからこそMY NEW HOUSEは後藤さんと日野さんの夢が詰まった場所になった。コツコツと経験を積みながら、抱え、磨き上げたビジョンについて2人はうれしそうに語る。
友達と家で遊んでるときのような場所をつくりたかったんです。レコードがいっぱいあって、それを聴きながら話をして、喉が乾いたらビールを飲んで、おなかが減ったらおいしいものが出てくるような。
後藤

そこにまた別の誰かが遊びに来て、新しい出会いがあったりもするようなね。ホームパーティーじゃないけど、友達の家に遊びに行く感覚で来れるお店っていうイメージで。
日野


──たくさんレコードを置くのもビジョンにあったんですね。
そうです。以前からDJイベントをやっていたので、レコードとDJブースを置いたらそういうこともできるかなと思って。で、試しにやってみたら、意外と大きい音でも外に漏れなかったから、「これはいけるぞ!」と。
日野

こんなに音出せるとは思わなかったよね。たまに楽器を演奏してもらったりしつつ、DJイベントは月に2回程度でマイペースに続けています。
後藤

見知らぬ人ともレコードで会話が生まれる。気取らない居心地の良さ
MY NEW HOUSEに置かれているのは基本的に後藤さんと日野さんが収集してきたレコードだ。ジャンルに縛られないセレクトで、ジャケットを眺めているだけでも楽しい。常連の中久木さんが2人と出会ったきっかけも音楽だった。
地元の横浜でかなり力を入れてバンドをやっていたんですけど、いろいろ抱え込んで疲れてしまって。2019年にベトナムに渡って、3、4年前に日本に戻ってきたんです。で、2人とはセオ・パリッシュ(デトロイトの世界的DJ)の来日公演のときに初めて会ったんだよね。
中久木


そうそう、そのあともいろんなDJパーティーで会ったりしてね。名前が特徴的だからすぐ覚えた(笑)。
後藤

でも、そのときはここまで親しくはなくて。お店ができる直前に僕が近くに引っ越してきて、お店に通ううちに仲良くなった感じですね。
中久木

レコードを買ってくれたり、ご飯を食べに来てくれたり。いろんなタイミングで来てもらっています。いまはパーティーの企画もしてくれたり。
日野

ここはフラッと行きたくなる場所なんですよね。2人の持っている激ゆるな雰囲気が心地良くて。ご飯もおいしいし、大好きなレコードがたくさんある。最高ですよ。
中久木


やっぱり、レコードが会話のきっかけになることも多いんです。
後藤

ドイツのDJが来てくれたときは、インドのハウスミュージックのレコードを見て「これ、友達のレコードだ! 東京で売っているぞ!」って、その友達にすぐ電話し始めて。僕も会話に混ぜてもらいました(笑)。
日野

マンチェスターから旅行で来ていた老夫婦が、店名の由来にもなったザ・フォール(マンチェスターのバンドで“My New House”という曲がある)のレコードを見て盛り上がってくれたこともありました。
後藤


お気に入りのレコードを持参して、お店で聴いていくお客さんも結構いるんです。
日野

家族と住んでいると、レコードは持っていても、プレイヤーやスピーカーを置くスペースがないという人も多いんですよ。そういう人が、聴きたいレコードをセレクトして持ってきてくれる。
後藤

レコードをこれだけ大きな音で聴くのは、とくに東京だと家ではなかなかできないですからね。でも、レコードって集め始めると愛着が湧くし、アナログな良さもあって、手放せないんですよ。
中久木

最近はXGのような若いアーティストもレコードを出していますよね。ジャケットが大きいし、盤面もかわいいものが多いから、グッズとして買う人もいるんです。でも、買ったレコードを聴く環境がない、そんな人が来てくれたりもします。
日野


で、そのレコードをお客さん全員で聴いて、感想を話したりしてね。だから 、皆で話しながら聴きたいレコードを持ってくる方も多いんです。
後藤

そこからお店にあるレコードの曲につないだりして、自然発生的にパーティーが始まったりもするよね。2人もそれを楽しんでいるのがまた良いんですよ。
中久木

たまにそういうのに厳しいお店もあるからね(笑)。
後藤


東京、とくに世田谷ってクールなお店が多いじゃないですか。僕はそういうお店も好きなんです。いい意味で“生意気系”って呼んでいて(笑)。でもMY NEW HOUSEは生意気すぎないというか。2人のゆるさがベースにあるから、かっこいいのに肩肘張らずにいられる。
中久木

いわゆる、大人の通うジャズバーのようなイメージにはしたくないんですよね。
日野

──お店に入ってすぐ目に入る『週刊少年ジャンプ』からもそんな空気が伝わってきます。

ジャンプは『HUNTER×HUNTER』が連載されている期間だけ置いてるんです(笑)。
日野

冨樫先生(『HUNTER×HUNTER』の著者)が描いて いるときはジャンプが読める(笑)。そういうかっこつけすぎない感じがいいですよね。
中久木

別にレコードが好きとか、音楽に詳しいとか関係なく楽しめる、誰もが居心地の良い空間を目指しています。
後藤

和牛タンに季節のパスタ、手作りスイーツ。経験を活かしたメニューに舌鼓
MY NEW HOUSEのもう1つの魅力は、なんといってもおいしい料理だ。日野さんが焼肉店で勤務していた時期から継続して仕入れている、とっておきの和牛を使った料理はもちろん、季節の食材を使ったパスタや手作りのデザートまで幅広く、メニューを眺めているとつい目移りしてしまう。


和牛タンのオムハヤシ。もう何度も食べているんですけど、やっぱりここの牛タンは柔らかくておいしいです。最近ダイエットしているんですけど、つい箸が進んじゃいます。
中久木



このタンは6時間煮込んでいます。和牛の牛タンってあまり取れなくて、日本で流通しているタンの3%くらいなんです。だから、食べられるお店がなかなかない。しかもうちは全部、仙台牛を使っています。
日野


それをできるだけカフェ価格でお出ししたくて。添えているパンは、尾山台 にあるパン屋さん「ON Y VA」のものです。
後藤



この冷製パスタもうまいです。ニンニクが効いていて、でも爽やか。ビーツのピンクが華やかで、目でも楽しめます。
中久木



今日は、しらすとトウモロコシの冷製ビーツクリームパスタです。昔イタリアンで働い たとき、オーナーの意向で野菜を主役にしたパスタをずっと作っていた経験から、季節の野菜を取り入れるのにはこだわってますね。
日野

日替わりではないけど、3、4日くらいの頻度でパスタは変わります。皆さん「次のパスタ何?」と楽しみにしてくれていますね。冬には渡り蟹のトマトクリームパスタを出したりもします。
後藤

スイーツもおいしいんですよね。このガトーショコラは、某有名ビジュアル系バンドのギタリストも太鼓判の味です。
中久木


お店の雰囲気のせいか、「え、手作りなんですか?」と驚かれることも多いです(笑)。
日野

抹茶のレアチーズケーキも、抹茶の主張が強すぎず、いいバランスです。ここのスイーツはお酒とも合うんで、飲める方はぜひ一緒に食べてみてほしいな。
中久木


友達の家・MY NEW HOUSEから広がっていくつながり
たくさんの料理を紹介してくれたあと、後藤さんと日野さんはMY NEW HOUSEの未来についても話してくれた。

スペースの関係で難しい部分はあるんですけど、レコードをもっと置いて、食事だけじゃなく、レコード目当てで来ても満足してもらえるようにできたらなって。
後藤

友人や知り合いのアーティストの描いた絵や作品ももっと置きたいですね。いまもいくつか販売しているんですけど。音楽に限らず、いろんなアイテムがあったらお客さんももっと楽しいかなって思うんです。
日野


あ、そういえば、今使っているコースターは過去に縁線図鑑でも紹介されていたバレアリック飲食店※1から受け継いだものなんです。
後藤

※1 バレアリック飲食店の記事はこちら

何度か遊びに行ったことがあって。ちょうど店主の國本さんがお店を閉めるタイミングで連絡したら、快く譲ってくれたんです。
日野

一緒に取りに行ったよね。僕はそのとき業務用の冷蔵庫を譲り受けました(笑)。
中久木

そういったつながりに支えられていますね。最近はこのあたりにも古着屋さんなどが増えてきていて、エリア全体がもっと盛り上がっていったらいいなと思っています。MY NEW HOUSEからもゆるやかに素敵なつながりが生まれているので、この先さらに増えていったらうれしいです。友達の家に行くみたいにフラッと立ち寄ってみてほしいですね。
後藤


世田谷の住宅街に生まれたMY NEW HOUSEでは、今日も誰かがレコードを聴き、料理を囲み、たまたま居合わせた誰かと話している。そうして生まれた小さなつながりが、また次の誰かをこの場所へ連れてくる。
最初に感じた、不思議と肩の力が抜けていく感覚。その理由はきっと、後藤さんと日野さんの人柄が、そのまま店の空気になっているからなのだろう。お店に出かけるというより、友達の家を訪ねる感覚で。一度訪れたら、またふらりと遊びに行きたくなる場所だ。
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