第1回東急子ども応援プログラム 助成先募集

美しい時代へ 東急グループ
第1回東急子ども応援プログラム 助成先の市民団体を募集します

選考委員の紹介と選考委員長による選後評

選考委員会

  • 選考委員長 木下 勇
    大妻女子大学教授/千葉大学名誉教授・グランドフェロー
  • 選考委員 岩田 美香
    法政大学 現代福祉学部 教授
  • 選考委員 原 美紀
    認定特定非営利活動法人 びーのびーの 副理事長・事務局長
  • 選考委員 桑子 敏雄
    一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ代表理事/東京工業大学 名誉教授
  • 選考委員 山成 敏彰
    東急株式会社 社長室 サステナビリティ推進グループ 統括部長

選後評

助成先団体の選考について

選考委員長 木下 勇

大妻女子大学教授/千葉大学名誉教授・グランドフェロー
大学で建築を学び、スイス連邦工科大学に留学。遊び場をテーマに工学博士を取得。「子どもの遊びと街研究会」を主宰する。農村生活総合研修センター研究員を経て千葉大学園芸学部教授、2020年4月より現職。日本ユニセフ協会「子どもにやさしいまちづくり事業」委員会委員長。
専門は、住民参画のまちづくり、都市計画、農村計画等。
主な著書に『遊びと街のエコロジー』(丸善、1996年)、『子どもの遊びと安全・安心が両立するコミュニティづくり』(萌文社、2000年)、『こどもがまちをつくる』(共編者、萌文社、2010年)など。

世界中に猛威をふるうコロナ禍の中、第1回東急子ども応援プログラムの選考が行われた。東急として初めての子ども分野の活動を助成するプログラムであり、総額1000万円以内、10件の選定である。146件も応募があったことは、反響と期待の大きさを物語っている。

わが国の子ども関係の予算は先進国の中でも対GDP比で米国に次いで低く、北欧、英国、ドイツ、フランスの半分ほどである。子どもの相対的貧困率もますます深刻さを増し、7人に1人という割合はOECD加盟国(37カ国)の中でワースト10に入る。子どもの権利委員会からもたびたび勧告を受けているように、子どもの人権に対する意識も低い。このコロナ禍で子どもに差別が起こるという事象も散見される。子どもの心身の成長に社会が関わっているという意識が国際的標準にまで育っていないことを物語る。一方、子育ての責任を一手に引き受けざるを得ない親は、不安感のあまり子どもを幼少期から管理下に置く傾向が助長されている。就学前から自発的に遊び、獲得する非認知能力が30年後の経済、社会の安定に影響するといった科学的知見は国の政策に全く生かされていない。

そんなことは分かっているという市民団体の方々はきっと多いに違いない。行政がやらないからこそ立ち上がって行政の目の届かないところに活躍する市民団体の多さでは海外にひけをとらないであろう。ただ残念なことに多くは資金力がない。専従の職員を置くこともできず、多くが無償の労働に頼っている。NPO法ができてだいぶ時間が経過し、NPOが成長する制度となっていない問題もあろうが、NPOと協働する精神が行政文化に育っていない問題もある。ならばそれを変えていくのも民間の力による。「新しい公共」といわれるのはそういう民間の力による公共で、それは市民団体のみならず、本プログラムのように企業の社会的活動も意味する。日本は企業の社会的貢献として子どもを対象とする活動もまだまだ少ない方であり、本プログラムは市民団体と共に開く「新しい公共」として期待されるところ大である。そのためか、驚くほどの多数の応募があったのであろう。

だが、多数の応募から10件を厳選するのは選考委員の責務とはいえ、かなり至難に近い業務である。とりわけ、選考過程で10件目に入るのと、惜しくも外れるボーダーラインのところは苦渋の決断で、この判断は正しいのか、心が揺れるものである。選考委員といえども生身の人間であり、皆が冷酷な機械ではなく心の痛みを伴う。選考委員も異なる専門分野、価値観を有し、一枚岩というわけではない。そういう多様な価値がぶつかり合っての討議をした結果であり、あくまでもその評価は絶対的評価ではなく、相対的評価である。しかも応募企画書を見ての選考であり、団体を評価してのことではないことをしっかりと伝えておきたい。募集要項に記載のある選考基準に照らし合わせて、応募企画書に書かれている企画の内容で選考したものである。残念ながら選から漏れた団体の方々にはその点を理解していただき、応募企画書の書き方を再検討いただき、次回の応募に再チャレンジを期待したい。とりわけ、選考過程の時期が第一波のコロナ禍の3密を避ける自粛の時期であり、一堂に選考委員が顔を合わせて激論する機会がとれなかったので、より書類の中身、書き方が左右したのではないかと思われる。

選考過程の経緯を以下に記す。初めに146件の応募書類を書類の不備がないか、また選考基準に照らしてその枠の中に入っているか、事務局による応募書類確認を経て、51件に絞り込まれた。次に、5名の選考委員による選考を行った。各選考委員が応募企画書を熟読した結果、選考基準①趣旨との適合性、②子どもの視点、③実現可能性、④地域性、⑤継続性の観点から◎、○、△の3段階の評価を付けながら、推薦5件、準推薦2件を選び、審査評を本年5月14日を期限として提出した。その結果、推薦が3名から集まった応募企画が3件、推薦2名が1件、推薦1名と準推薦2名が1件、推薦1名と準推薦1名が1件、そして推薦1名が12件、および準推薦2名が1件、準推薦1名が5件とかなり評価は分かれた。この結果をもって、上位6件は選考候補として、残り候補4件を推薦1名で評価された12件と準推薦2名の1件を合わせた計13件の中から選ぶ方針に合意し、5月28日のオンライン会議を利用しての選考委員会に臨んだ。なお、事前選考結果で意見がかなり分散していたため、このオンライン選考委員会の前に対象の13件の中から各選考委員が各々4件を推薦した案を提出して、オンライン選考委員会に臨んだ。その結果、13件の中から2名の一致が8件と評価が分かれた。オンライン会議の選考では、その結果を参照しながら対象の1件ずつ議論を重ね、最後に決戦投票に臨んだ。その結果、4件に絞り込まれ、先に候補となっていた6件と合わせて、助成対象候補としての10件が選考された。

以上の過程で見るように、評価は大きく分かれた。それは選考委員の分野と価値観の違いもあるだろうが、応募企画も甲乙付けがたいほど拮抗していたことによろう。残念なことに多くの者で均等に分けるにはまだパイが小さい。パイの大きさは資金のみではなく人材的な面もある。助成が効果を果たすには助成団体のみならず助成元との協働のマネジメントも重要なことだからである。

前述のようにわが国の子どもへの投資は少ない点が課題であり、子ども関係の市民団体の活躍に頼る面も少なくない。その間に入り、この助成プログラムのように民間企業が投資して市民活動を支援することは、「新しい公共」として社会的に重要な役割を担う。また、このプログラムを育てていくことは市民団体側の意識と行動にもかかる。共に子どもに向き合い資金のみならず人的パワーも含めて投じる協働が持続可能な未来へつながることと期待される。

最後に一点、多くの企画が大人側の子どもに「してあげる」という観点であることが気になった。選考基準の「子どもの視点」は「子どものため」だけではなく、「子ども自身の目」という意味も含み、子どもが主体的に関わり、未来を担う人材の成長を支援する企画ももっと増えることも併せて、このプログラムが市民の皆さまと共に成長することを願う。