
講師 : 東急病院 消化器・肝臓内科 梶原 幹生
毎回御好評を頂いている「肝臓病教室」、今年度初めての教室が6月9日開催されました。皆さんお忙しい中、今回も多くの受講者にお越し頂きました。今回の肝臓病教室テーマは、「B型肝炎」、そして「C型肝炎」です。日本人の疾患別死因の首位を占める悪性新生物(がん)。その中でも肝がん(肝細胞がん)は、男性では第3位、女性でも第4位に位置する、主要ながんの一つです。肝がんだけではなく、肝硬変症などの(がんを除いた)肝疾患も疾患別死因の10位内を常に占める「common disease(ありふれた病気)」です。肝臓をとりまく健康上の諸問題につき、皆さん熱心に聴講されました。内容の要点につき以下にお記しします。
慢性の肝臓病が進行して肝臓の働きが低下すると、腹水や下肢のむくみ、黄疸、肝性脳症(意識状態が悪化すること)、こむらがえり、食道静脈瘤、そして肝がんなどのさまざまな合併症を伴う様になります。腹水や黄疸などの肝不全症状を伴う、「非代償性」の肝硬変では、5年生存率は3割以下といわれています。一方で肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、自覚症状のないまま肝障害が進行している事も少なくありません。日本の肝がんは、その多く(およそ9割)がB型肝炎あるいはC型肝炎ウィルス感染症に伴う慢性肝炎ないし肝硬変症を背景としており、わが国にはこれらのウィルス感染者は少なくとも300万人程度はいると言われており、まさに肝臓病は国民病の1つといっても過言ではありません。慢性B型肝炎、C型肝炎を適切に治療することが最善の発がん予防と言えます。
B型肝炎ウィルスは血液が主な感染経路であり、輸血や臓器移植、注射器による針刺し事故、性交渉などが原因となりますが、慢性肝炎として問題となるのは主として母子感染をはじめとした幼少時の感染です(成人してからの感染では、急性肝炎を発症するものの多くがその後治癒するとされてきましたが、近年海外より慢性化しやすいタイプのウィルスが輸入され、問題となりつつあります)。一方、C型肝炎ウィルスについても血液が主な感染経路であり、かつては輸血による感染がみられましたが、現在では検査体制が確立したため、新たな感染者は少なくなっています。C型肝炎ウィルスは、B型と異なり、急性肝炎のみで完治する事は多くなく、慢性化率が高い事が知られています。
慢性B型肝炎と診断された場合、現在の医療では身体からウィルスを排除する事は困難とされていますが、従来からのインターフェロンの注射療法に加え、ラミブジンやエンテカビルといった核酸アナログ製剤と呼ばれる経口新薬の登場により、身体の中のウィルス量を効果的に減らし、肝炎の軽減を図って肝硬変への進展や肝がんの発症を抑える事が期待できる様になりました。ラミブジンについては長期間の投与で高率に耐性ウィルスが出現する事が問題となりましたが、より新しい薬であるエンテカビルでは耐性ウィルスの出現率は低いと考えられていて現在では標準的な治療薬と考えられています(表1、2)。今後はさらに新しい世代の薬剤も開発されつつあります。
C型肝炎については、インターフェロン療法を行う事でウィルスの完全な排除を目指します。とはいえ、わが国ではインターフェロンが効きにくいタイプのウィルス感染者が多く、従来は完治する率は必ずしも高いものではありませんでした。ところが、近年、血中の濃度をある程度一定に保つ改良がなされたインターフェロン製剤である、ペグ・インターフェロンと、そして経口薬であるリバビリンを組み合わせる事により、またその投与の方法や期間を工夫する事により、奏功率は5割を超えるまで改善してきました(表3)。特にインターフェロン療法については、発熱や関節痛、血球減少、脱毛、抑うつ等様々な副作用が出現する事があります。そのため一律に治療方針が決定される訳ではなく、実地においては、ウィルスのタイプや量、そして肝臓の状態や年齢その他の条件により選択される方法が異なります(インターフェロン療法の適応とはならない場合もあり、そうした場合は、対症療法としてグリチルリチン製剤等の肝庇護療法を行う事もあります)ので、詳しくはかかりつけ診療所の先生や肝臓専門医におたずね下さい。また、慢性肝炎に対するインターフェロン療法に加えて、核酸アナログ製剤療法についても、今年度より医療費の補助が受けられる様になりました。こちらについては、都道府県やお近くの保健所にお問い合わせ下さい。
肝臓病はまさに国民病ともいえるものですが、近年の医学の発達に伴い、より良い治療効果も期待できる様になってきました。肝疾患の患者さんや家族の皆さんも、正しい知識を学び、必要以上に恐れる事なく、かかりつけ診療所の先生や専門医と協力しながら、日々の健康増進に努めましょう。



栄養科 管理栄養士 山中 けい子
肝臓の働きが悪くなると、糖質をはじめとしてタンパク質・脂質の体内での代謝異常がおこり、それを補うためには十分な栄養素の確保が必要となります。糖質・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維をまんべんなくバランス良く摂ることが必要で、以下が肝臓を守るための食事のポイントとなります。
肝臓に必要な栄養を補うためには、1 日に必要な栄養素を3 食過不足なくとることが必要です。
1 日2 食や、菓子類の間食ばかりでは必要な栄養素が摂れず、栄養のバランスを崩します。
栄養素をまんべんなく摂るためには食卓の皿の数を増やし、毎食、主食・主菜・副菜を揃えることです。また、肝臓が防腐剤や着色料などの添加物を解毒しているため、加工食品の摂り過ぎは肝臓に負担をかけることになるので注意しましょう。
肝臓も肝臓内で働く酵素もタンパク質でできています。卵、牛乳、肉類、魚介類などの動物性タンパク質と大豆や大豆製品(豆腐や納豆など)ご飯や豆類などの植物性タンパク質を適量に摂ることが必要です。これらを十分に摂ることにより必須アミノ酸を確保することに繋がります。
肝臓病ではタンパク質の消費が増大し、また合成障害などで体内での生産や吸収も低下するため、体内で再構築が容易に行われる必須アミノ酸を摂る必要があります。1 日のタンパク質の適量は1 日の総エネルギーの25%で、標準体重あたり1~1.2gです。
肝臓も肝臓内で働く酵素もタンパク質でできています。卵、牛乳、肉類、魚介類などの動物性タンパク質と大豆や大豆製品(豆腐や納豆など)ご飯や豆類などの植物性タンパク質を適量に摂ることが必要です。これらを十分に摂ることにより必須アミノ酸を確保することに繋がります。
肝臓病ではタンパク質の消費が増大し、また合成障害などで体内での生産や吸収も低下するため、体内で再構築が容易に行われる必須アミノ酸を摂る必要があります。1 日のタンパク質の適量は1 日の総エネルギーの25%で、標準体重あたり1~1.2gです。
糖質もエネルギー源として必要で、中でもご飯、パン、麺類などの炭水化物は適量(毎食、ご飯は1 膳、パンなら1~2 枚、麺なら1 玉)を摂るようにします。糖質の中でも果物はビタミンの確保に1 日100~200gは必要ですが、果物の食べ過ぎや、菓子類などは余分なエネルギーとなり脂肪肝などになることもあるので注意が必要です。
肝臓は代謝活動の中心で、大量のビタミン・ミネラルを必要としています。不足は代謝障害、細胞の老化、肝臓の萎縮、再生不良につながることもあります。ビタミンB 群は糖質の代謝に働き、ビタミンCは肝臓での解毒の働きを助け、炎症を防ぎ回復させる働きもあります。
ビタミンAは肝臓の膜と細胞を保護し、ビタミンEは代謝を妨げる過酸化脂質による肝臓の変性を防ぎます。ビタミンA・D・E・Kなどの脂溶性ビタミンは摂り過ぎると体内にたまり過剰症を招くことがあります。通常の食事では問題ありませんがビタミン剤などのサプリメントには注意が必要です。
ミネラルの中でも亜鉛は肝細胞の再生を助けます。またビタミンは1種類だけでなく他のビタミンやミネラルと関わりながら作用しているのでバランス良くとるようにしましょう。
食べ過ぎや便秘の予防となる野菜、海藻類、きのこ類などの食物繊維を積極的にとりましょう。
生活習慣病の予防として減塩食にすることは重要ですが、特に肝臓病の中でも肝硬変の場合は塩分を制限する必要があります。肝硬変ではアミノ酸の代謝異常が起こり、塩分、水分の過剰摂取が腹水を生じさせ肝硬変の状態を悪くします。このような状態では塩分3~6gに控えます。
腹水がある場合は水分の制限も必要です。
アルコールは肝臓に負担をかけるので、控えた方が良いとされており、過剰摂取は脂肪肝の原因となります。胃や腸で吸収されたアルコールは、まず肝臓に運ばれ毒性の強いアセトアルデヒドに分解されます。そして酢酸に分解された後、体内でエネルギーとして利用され、最終的には水と二酸化炭素となり体外に排出されます。アルコールの過剰摂取や、もともと体内にアルコール脱水素酵素が少ないと、アルコール分解が追いつかず、脳や全身にまわり二日酔いを招いてしまいます。勿論、肝臓に障害がある場合は断酒が望ましく、障害がなくとも、肝臓病予防のためには適度な飲酒量を守りましょう。また、休肝日を設けたり、おつまみにはタンパク質・ビタミンを多く含むものを食べながら飲むようにすると良いでしょう。