
講師:東急病院呼吸器内科非常勤医師
昭和大学病院准教授 大西 司
禁煙は世の中の流れで、タバコの吸えない環境になりつつあります。でもなかなか止められない人が多く、特に若い女性の喫煙率は現在も増加傾向です。呼吸器の診療の中で気づいたことは 1 )タバコ関連疾患が多い 2)喫煙は依存症 3)喫煙者の8割はやめたいと思っている 4)止めるまで数回は禁煙をトライしている 5)やめるきっかけが必要 6)節煙より断煙 7)止めたら一本も吸わないことが大切ということです。講演内容は[1]たばこの害 [2]特に肺癌と肺気腫との関連について[3]たばこのしくみ [4]いかにたばこを止めるか[5]禁煙支援の方法について述べます。
タバコの煙は、4000種類もの化学物質、60種類の発癌性物質を含みます。全身の癌だけでなく、循環器、呼吸器、生殖器などに、多くの重篤な病態を引き起こし、加齢にともない頻度はさらに上昇します。副流煙は主流煙に比べて、数倍~数十倍の有害物質を含みます。単に場所を分けただけの分煙では、受動喫煙は避けられません。
日本の喫煙量は戦後高度成長期に急速に伸び、毎年肺ガン罹病率を増しています。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は9割以上が喫煙と関連します。肺胞壁の炎症、破壊が起こると、肺気腫の病変が、末梢気道で繊毛上皮の障害、末梢気道の瘢痕狭小化が進むと慢性気管支炎の病変が形成されます。初期の頃は画像の変化だけ、喫煙を継続すると気腫化が進み呼吸機能が低下します。階段や坂道を登ると息苦しくなってきた、せきやたんが長く続く、というのが最初の症状です。
日本では、巧みな広告で若い女性や青少年がターゲットにされています。マイルドなたばこはフィルター手前の小さな穴から空気が入り薄められるだけで、軽いタバコに変えても、体内に取り込まれるニコチン量は変わりません。急速に肺から吸収され数秒で脳内に達するニコチンは、脳内報酬回路に神経伝達物質の代わりに刺激を与え、報酬感を感じさせます。ニコチン依存には身体的依存と心理的依存が存在し、後者が強固です。依存になると体に悪いことが分かっていても止められなくなるのです。風邪を引いていてもタバコを吸ってしまう。もう依存症です。
禁煙は短期的にも長期的にも様々な医学的な効用が期待できます。禁煙後20分で血圧や脈拍が正常化し、12時間後には血液中の一酸化炭素濃度が正常になります。禁煙後2週間~3ヵ月すると心機能、肺機能が改善し、1~9ヵ月後には咳、息切れが改善します。禁煙1年後には上昇していた冠動脈疾患のリスクが半減し、5年後には脳卒中のリスクが非喫煙者と同じレベルにまで低下します。禁煙後10年経過すると、肺がんによる死亡率が喫煙者の半分となり、口腔がん、咽頭がん、食道がん、膀胱がん、子宮頸がん、膵臓がんになるリスクが低下します。禁煙後15年経過すると、冠動脈疾患のリスクが非喫煙者と同じレベルになります。このように禁煙は様々な効用が期待できます。日常の外来診療や健診の現場で短時間に実施できる禁煙治療の方法としては「5Aアプローチ」(Ask、Advise、Assess、Assist、Arrange)という指導手順があります。可能なら、禁煙の実行につなげるようにしています。禁煙の働きかけは、禁煙成功率がたとえ高くなくても、社会全体としては重要です。実際に意志だけでやめようとしても止められないのがタバコ依存の特徴です。その時は禁煙外来を紹介するようにしています。
保険禁煙プログラムは、12週間に渡り計5回の禁煙治療を行います。使用する薬剤はニコチン代替療法としてニコチンを皮膚から吸収させるニコチネルTTSがあります。特徴は即効性と使用の簡便性です。飲み薬のバレニクリンはα4β2ニコチン受容体の部分作動薬で、少量のドパミンを放出させ、タバコに対する切望感を軽減し、拮抗薬として受容体へのニコチンの結合を妨げ、喫煙による満足感を抑制します。特徴は副作用が少なく、喫煙中に開始できることです。離脱症状を乗り切る九つのポイントと禁煙のメリットを示します。ぜひこの機会に禁煙を成功させて下さい。

1. 冷たい氷、熱い茶を利用
2. 痛み刺激で気を紛らわせる
3. 歯ブラシなど、禁煙グッズ
4. 体を動かす
5. 深呼吸とリラックス法
6. 野菜を多食
7. 酒席は2週間避ける
8. 煙草の席に近寄らない
9. 気楽な気持ちで禁煙をのばしていく

1. 本人と家族の健康と長寿
2. 喫煙の欲求がなくなり心が安定する
3. 食べ物がおいしく感じられる
4. 体力、持久力の回復
5. 体重がほどよく増える
6. 時間に余裕ができる
7. タバコ代の倹約でお金が貯まる
8. 家族や周りの人に喜ばれる
9. 何よりも積極的な気持ちになれる